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東室ウィークリー

東室ウィークリー

【東室ウィークリー Vol.84】

更新日:2019.02.22 

【東室ウィークリー Vol.84】
先週は雪や寒さのことに触れましたが、この一週間は温かい日も増え、陽の長さも長くなったな~と思うなど、少しずつ春の訪れを実感しています。
もしかしたら、来月の今頃は桜が見えているかもしれないですね。

さて、今回Vol.84の担当は、
首席ファゴット奏者の「高橋誠一郎(たかはしせいいちろう)」さんです!
東室での演奏歴が30年を超え、様々な東室の姿をご覧になってきました高橋さんに、今月の「90周年コンサートに向けて」というテーマのもと、ご自身の音楽歴を振り返りながら、いわくぼささを氏のサウンドや思い出の曲たちについて語っていただきました。


【珠玉の名曲達】

『出会いとは』
人生の中に“出会い”、はいくつもありますが、“最初の出会い”となる大きな出会いは、ファゴットに巡り合った事です。
私は幼少の頃からヴァイオリンやピアノそしてトランペットとクラリネットを経験してきましたが、ファゴットに出会ってすべてが一変しました。

ファゴットが好きになり、クラシックが好きになり、プロの音楽家になろうと固く決意したのが中学生の時。
そこから毎日、音楽家になるための猛練習が始まり、練習すればするほど自分が変わる、どんどんできる事が増える。こんな感激に充ち溢れている毎日をファゴットは私に見せてくれます。
1日中ファゴットの練習とクラシック曲に浸る毎日。
音楽家になる為に自分に必要なものは何か?をいつも考えていたのです。まさにクラシックオタクの始まりでした。

そして19歳の時に二度目の“出会い”が『Jazz』。
それ迄には無かったものがそこにはあり、新しく開拓しなくてはいけないもの、新しいチャレンジをするべきだという使命感を覚えました。
それと同時に、自分がクラシックが一番だと思っている事に気が付き、その考えが薄っぺらで陳腐なものに感じられたのです。
ちょうどその頃、東京室内管弦楽団に演奏に来るようになり、良いものにジャンルは関係ない、と確信したのです。
そこでJazzのレコードを買い漁り、フュージョン、ポップス、映画音楽、ミュージカル、シャンソン、タンゴ、と続き“良いもの”を探し求める毎日に。

当時ビデオレコーダーはとても高価で買えない物だった為、「一度聴いたら忘れないぞ!」という覚悟で聞いていました。
モーツァルトは門外不出のグレゴリアチャントの曲を一度聞いただけで「よし!全部覚えたぞ!!」と自慢していたようですが、意気込みだけは私も同じものだったと思います。

三度目の“出会い”はドイツでのこと。それは“曲作り”との出会いでした。
友人のクラリネット奏者のライムント・リッツが作曲した手書きの譜面を見て、演奏家が作曲もすることは自然なことだと感じました。

そして数年後に自分が作・編曲をする事となり、作・編曲の難しさ奥深さと大きな魅力を知ったのです。
大学時代に桐朋学園の学長でもあった三善晃先生に音楽理論を4年間習う幸運を持ちながらも、まだまだ未熟な、非力さを痛切に感じていた。

そんな時代に、岩窪先生の作品をオーケストラで演奏することで、『名曲』に“出会い”、名アレンジに“出会い”ました。
そして岩窪先生の人柄に触れうことで解ったこと、それは《曲作り》とは人を知ること、考えることなのだと。

私がこのオーケストラで演奏するようになって37年。
今度の春で38年目。長い年月ですが、日々奮闘してきた私の音楽人生の中ではあっという間の月日でしかなく。岩窪先生が亡くなった今でも、演奏するたびにそこに岩窪先生はいらっしゃる気がします。
岩窪先生がオーケストラに向かって「ありがとう!!」とおっしゃっていた笑顔が今でも思い出されます。

『名曲に出会う』
「人生の中で最も素晴らしい感動を何度も感じられる至福の極み」
目に見えず、感じることしかできないからこそ一番心に留まるのではないだろうか。
岩窪先生の編曲の凄いところは、

(1)少ない人数でも重厚な音がするハーモニー
(2)木管楽器や金管楽器の色彩豊かな使い方
(3)メロディーの聞き取りやすさ
(4)金管楽器の迫力
(5)打楽器群のここぞという色どりやアクセント
(6)弦楽器の美しく暖かいサウンド

いくら上げてもきりが無いほど数多くの魅力があります。

“良いものはジャンルに関係なく良い!!”

モーツァルトの『フルートとハープのための協奏曲』。この曲はただ一言、「美しい!」
そしてそのトキメキと同様に美しく、可憐な状況が目に浮かぶのが『マドンナの宝石』です。
最初にフルートとハープによって始まる。
この曲は1911年初演のイタリアのフェラーリ作品。(奔放な女マリエッラの恋の話。恋は報われず身を投げて死んでしまうという悲劇)
映画では、『太陽がいっぱい』主演のアラン・ドロンの魅力満載でした。

儚い(はかない)夢と熱い思いを見せてくれるチャップリンの『ライムライト』。
その感動はあの白黒の映画を見ていたときの思い出も甦らせてくれます。
この曲のリハーサルの時、岩窪先生が「もう少しこの途中の部分を長くできませんか?」とピアニストとパーカッションに相談しました。すると二人は「解りました」と返事をすると打ち合わせ後すぐに合奏を始めました。
そして中間部を、神秘的な混沌とした苦難の道、虚無感を彩る宇宙的な時空を漂う時間として作ってしまったのです。
岩窪先生の一言で変わる、演奏する人達を信頼する岩窪先生ならではのマジカルなひと時でした。そしてその部分は演奏会によって長いバージョンと短いバージョンとで演奏されるようになったのです。

次は『シバの女王』
『ローマの休日』でオードリーヘップバーンが演じたとある国の王女役で有名になりました。
タンゴと言えば『リベルタンゴ』もそこらじゅうで聴ける時代がありました。
でも、バンドネオンとオーケストラによる本格的なアルゼンチンタンゴは格別です。
ところで皆さん、“コラボ”という単語はいつ頃できたのかご存知でしょうか?
この単語は2000年頃から使われ始め、実際色々な分野で行われたのはもっと後、しかも現場ではなかなか認められず、やってもただ目新しいことを奇をてらった事として酷評されるのがオチでした。

でもこの東京室内管弦楽団では、その言葉の無い時代にもコラボ的な活動をずっとやってきました。そして、愛され親しまれて皆さんに大事にされ続けたのです。
アメリカのボストンポップス交響楽団、フランスのポール・モーリア楽団やルフェーブルオーケストラ、『夏の日の恋』1960年全米チャート1位になったパーシーフェイス楽団等のプログラムはポップスがほとんどなのに対し、
東京室内管弦楽団はシンフォニーも映画もミュージカルも色とりどり、珠玉の名曲達は、時に暖かく、時に爽やかな青春を思い出し、昔も今も人生を癒してくれる事でしょう。

今でもずっと、映画の名作と共に名曲は皆さんの心の中で鳴り続けています。
岩窪先生の人間味あふれる編曲の数々で、名曲との“出会い”をお楽しみください。


高橋さんありがとうございました!

東室での思い出や、印象深いアレンジのお話など、全体を通しての音楽と東室への想いが伝わり、読んでいて嬉しい気分になりました。
高橋さんには事務局で実際直接お話をお伺いしたこともあるのですが、その際もいわくぼ氏のことを本当に楽しそうに語って下さいました。

高橋さん思い出の曲も多数演奏される、「不滅の映画音楽&タンゴ」
どうぞお楽しみに!

さて、次回は3月となりますが、引き続き「90周年コンサートへ向けて」のテーマで、東室をよく知る演奏家の方々にお話を聞いていきます。
企画段階では3月のみの予定だったのですが、せっかくの90周年、1ヶ月で4人からしかお話を聞けないのは少ない!ということで、2ヶ月かけての長期テーマとさせていただきました。
来月の東室ウィークリーにもぜひご注目ください!

 


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