東室ウィークリー
【東室ウィークリー Vol.83】
更新日:2019.02.15
【東室ウィークリー Vol.83】
先の週末では都内も雪が降るなど、厳しい寒さが続いておりますがみなさま如何お過ごしでしょうか。
事務局では現在3月の公演に向けての準備はもちろん、その後の春や夏のコンサートに向けても動き出しています。
今は寒くとも、暖かい季節に思いを馳せ、日々制作しています。
さて、今回Vol.83の担当は、
当団ピアノ奏者の「中山育美(なかやまいくみ)」さんです!
中山さんは当団では編曲も手がけており、奏者と編曲家両方の視点から、
3/29サントリーホールでの「不滅の映画音楽とタンゴ」について、いわくぼささを氏のサウンドを、思い出も含めてお話しいただきました。
『不滅の映画音楽とタンゴ』
久しぶりに聞く、懐かしい響き…。
20年前、突然、他界された指揮者でアレンジャーで総合プロデューサーでいらした、いわくぼささをさんの、目をクリクリさせた笑顔を思い出します。
当時、映画音楽やポップスを演奏するオーケストラは少なく、偶に演奏してもクラシック以外は軽んじられ、やる気の無い演奏をする傾向があると思われていた業界の中で、
東京室内管弦楽団だけは「シンフォニーと同じテンションでやっているんだ」と、いわくぼさんはハッキリと仰って、100ストリングスをはじめ、このジャンルで大成功を収めていました。
お陰様でピアノは影になり日向になり、様々な形で沢山使って頂きました。
特徴的なイントロで使われたり、目立つ旋律を与えられたり、コンチェルトのようなサウンドを求められたり、コントラバスやトロンボーンセクションに彩りと芯を足してブレンド的効果の役割を担ったり、千差万別である事を楽しませて頂き、またオーケストラ編曲の勉強にもなりました。
いわくぼさんのサウンドの最大の特徴は、何と言っても”ストリングス”です。
ふわーっとした分厚いお布団のような響きは、高音域を駆け登り、どこまでもどこまでも広がって、成層圏までも届かせようとするかのようにキラキラと輝きます。
一方、管楽器群は「それぞれ誰が演奏するか、顔を思い浮かべながらアレンジしているんです」と想定されている旋律を、自由に伸び伸びと旋律を奏で、いわくぼさんの期待に応えました。
打楽器群は、効果抜群な大きな太鼓類は元より、トライアングル、グロッケンシュピール、フィンガーベル等の繊細で光る音色に凝って練り錬られたアレンジがされて、それら全てが上手くいくと、満面の笑みをたたえていらしたものです。
「あの笑顔が良いんだよね」当時のプレイヤー達は、楽屋でよく話していました。
皆、いわくぼさんの笑顔が見たくて演奏していたものです。
また、更にストリングスに関して最晩年は、『カスケード』と呼ばれるバイオリン群の中ですら何声にも分けて、まるでピアノのサステインペダルを踏んだような、よりマジカルにキラキラ輝くサウンド研究に熱中していらっしゃったものです。
どの曲も、どのタイミングでどんなサウンドがするか、どの楽器の奏者も全員が知っていて、いつしか皆が『いわくぼサウンド』と呼ぶようになりました。
始まりは「せーの!」で始まり、途中は各々メロディを奏でる楽器は放し飼い状態で自由に伸び伸び。そして「ここぞ!」という地点までくると、いわくぼさんのタクトが冴えて『いわくぼサウンド』が舞台上で燃え上がり、キラキラ昇華する蒸気が充満するのが目に見えるようで、そこまで行くといわくぼさんも、演奏メンバーも最高の満足感に満たされるのでした。
私が、いわくぼさんとご一緒させて頂いたのは、1992年1月から残念ながら他界された1998年11月までの、ほぼ丸6年でした。
私などはたった6年…でしたが「満員御礼への提言」として、各地の大ホール、自治体の文化担当者へ、魅力あるプログラムの提案や、音楽文化の普及に努められて、福祉の方面でも、社会に様々な貢献をずいぶんなさっていたのを拝見していました。
「音楽は、最後は人だから」そう仰っていらしたいわくぼさんの、十八番の曲目が並ぶプログラム。サントリー大ホールに、あの理想郷が降りてきて、どんな風に鳴り響くか、今からとても楽しみです。
中山さんありがとうございました!
弦楽器、管楽器、打楽器それぞれがキラキラ輝く『いわくぼサウンド』、今まで何曲かは耳にしたことがあれど、中山さんをはじめ演奏家の方々からのお話を聞いてからコンサート全体で聴くことができるのは今回が初めてで、スタッフ自身本当に楽しみです。
東室の演奏家たちが愛してやまない『いわくぼサウンド』、ぜひサントリーホールにて皆さまにも体験していただければと思います。
さて、次回の東室ウィークリーはファゴット首席奏者の高橋誠一郎さんです。
東室に在籍して30年程になる高橋さんには、「不滅の映画音楽とタンゴ」で演奏する曲を当時の思い出も含め、お話しいただきます。
どうぞお楽しみに!